横浜・青葉の家 House of Aoba Yokohama completion:2016.8

photo by Koji Fujii(Nacasa&Partners Inc)

 横浜市青葉区に建つ、ご夫妻と育ち盛りの3人のお子さんのための住宅だ。
 敷地は奥に向かって5メートルほどの高低差を持つ。周辺は閑静な住宅地であり、接道する間口に対して左右に隣家が並んでいる。この敷地形状から建物の構成を導き出すために、我々は「敷地環境に建物を預ける」という方法を選択した。建物ありきで敷地にはめ込むのではなく、敷地の個性に建物を託すという発想である。この場合、建物にもそれによって生まれる特徴が反映されるが、オーナーご夫妻と対話を進める中で、この方法が効を奏すると確信した。なぜならご夫妻からは「暮らしを楽しむ」という豊かな感性が存分に感じられたからだ。
 建物は1階がRC、2階が木造の混構造となっている。1階部分は最低限の切土に抑えており、土留めを兼ねたコンクリートは玄関と和室の天井高に反映されている。天井高から切土嵩を計算するのではなく、空間機能を満たす範囲で極力地盤に負荷をかけない方法を採択した。建物のコンクリートは杉板型枠仕上げを施し、味わい深い表情を持たせている。
 主な生活空間は2階に設けている。2階は木造であり1階との空気感にコントラストをつけている。各居室はLDKから緩やかに振り分け「境」を曖昧にした。特に子ども部屋は「個室」というよりも「個スペース」として捉え、LDKに内包するかたちにしている。曖昧な区切りは個々が過ごす場所を限定しない分、暮らし方への融通性を広げられる。家族構成や生活スタイルは子どもの成長と共に変化していくため、住宅には可変性を携えた鷹揚さが必要である。また、成長期の子どもたちの居場所を限定しないことは創意工夫という感覚に翼を持たせる。現代社会は子どもが単独で冒険を展開できる場所が少なくなってきた。いずれにせよ我が家は一番安全な空間であり、子どもが1日のうちで最も長く過ごす場所である。元来子どもは遊びの天才だ。家のあちらこちらで彼らのワールドは日々展開される。子育て世代の住宅づくりは「子どもの創造力」に意識を向けるとおもしろい。素材選択や間取りの着想域が広がる。
 この住宅の特徴には「窓」という要素もある。隣家に接近しているため、あえて外への大きな開口を設けてはいない。通風や採光はプライバシーに配慮して機能的に盛り込み、居住性を損なわないよう配慮している。適度な開放感と安らぎを両立させるため、全周にハイサイドライトを回している。各室にも連続させ、視覚的な奥行きと透過性を与えている。またこのハイサイドライトには額縁の役割も持たせている。ガラスの向こうに映し出される風景は「家族のためだけの絵画」だ。木々の緑や空の色の移り変わり、月あかり、雨のしずく~と、その絵画は刻々と表情を変化させる。風にそよぐ木々の揺らぎは、光をまとって美しい影を形成し、天然素材に包まれた室内を柔らかく伝う。
 ハイサイドライトの採用は豊かさの提供でもある。豊かさの解釈は広義であるが、この住宅においては情緒性に着眼している。ご夫妻には「忙しい日常からしばし解き放たれる安らぎ」を、お子さん方には「イマジネーションの広がり」を贈りたいと考えた。
LDKの外には高低差を利用した庭のスペースが奥の斜面に連続している。庭から階段を下りると、和室に面した中庭からエントランスに回り込むことができる。接道面は植栽によって建物に優しい彩りを添え、内バルコニーまで伸びるハイノキで清々しさを演出。春先には可憐な小花を纏う。和室の前に植えられたアオダモも、初夏には淡雪のような白い花をつけ秋には紅葉する。このアオダモは若木である。
 アオダモはゆっくりゆっくり成長する。お子さんたちと互いの成長を確かめ合いながら時を重ねていってくれることだろう。この住宅が、ご家族にとって大切な故郷となってくれたら大変に幸せなことであり、我々にとってこれ程嬉しいことはない。

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