CASABELLA821

 

 

 

河口佳介

「大山のゲストハウス/森の隙間」

設計=河口佳介+K2DESIGN

村上春樹だったら何と言うだろうか?カルロッタ・トノン

このプロジェクトの舞台は、大山山麓の近年造成開発された別荘地である。規則的な区画に分けられているが、地表には人工的な境界が一切置かれていない。敷地の周縁を彩る森を手つかずのまま保全するという賢明な選択である。

 四季の移り変わりとともに、夏には下草や低木が茂り、秋には落ち葉で埋まり、冬には月光に輝く一面の雪が地表を覆う。背後には、壮厳で神秘的な大山が時の経過をものともせずに、こちらを見下ろすように佇む。

 敷地は松と桜の樹木に囲まれた約20m×70mの土地で、自然との触れ合いをできるだけ活かしたゲストハウスという、シンプルな設計テーマが求められた。1年の大半は留守になるものの、四季の変化を楽しめるゆとりのある家でなければならない。

 冬の間、大山の家を囲む風景は一面の雪に覆われる。俄には実感しがたいが、心躍る想像ではないだろうか。そうすることでほんの一時でも、建築家が自然を見つめるにあたって貫いた厳しい鍛錬と、建築と風景の独自の関係を打ち立てる態度を追体験できるかもしれない。その成果は、フォルムの解体、すなわち木々が枝分かれするのに合わせてフォルムを分解していく設計と一致する。例えば京都出身の作家・村上春樹は、これと同じ姿勢を文学において実践している。小説「ノルウェイの森」において、彼は自然と登場人物のあいだに共感関係を打ち立てる。完全に雪に覆われた風景=シナリオに沿って両者が介在しあい、彼らの肌は寒さに震える。村上がこの身体感覚を強調したのは、主要人物どうしの感情的な緊迫感を増幅するためである。まさに同じ手法が、K2-Designの設計に見て取れる。彼らは極めて科学的かつ直感的な自然環境の読解を建築デザインに移し替え、やはり感情を震わせる緊張感を空間の中に作り出そうとした。

「大山のゲストハウス」を設計するにあたって、場の自然的アイデンティティを弱めないために、可能な限り多くの樹木を残すという意志がひとつの条件となった。設計者たちは、植生の密度が変わること、「松林に囲まれた望むゾーンは、垂直方向がすっきりと開けている」ことを「強く意識した」。ヴォリュームの設計に入る前に、彼らはすべての樹木の位置関係を調べ、高さと枝の広がりをダイヤグラムにまとめた。

 こうして、樹木のない空白部分の、すなわち建設可能な部分の完全な測量データが出来上がった。樹木の伐採は、もしかすると地面を平坦に均すだけでも、このエリアの特性を破壊し変化させてしまいかねない。もし建物の周りを人工的な少量の細い木のフレームで囲んだとしたら、否定された自然の不適切な引用に終わったかもしれない。K2-DESIGN、技術的には、建物を地表から持ち上げ、鉄筋コンクリートのピロティで支える方法を選んだ。住宅を湿気と雪から保護するこの解決によって、1階の通気を確保し2階部分におもな部屋を配置できる。

  設計者たちは居住空間を建設できる7区画を綿密に調査し、短い連絡路で家のさまざまな機能どうしを連結できると考えた。建物のあらゆる要素が、木々に囲まれたエリアの広さと高さの比例を正確に計算して導き出されているのがはっきり分かる。彼らは予備設計に続いてロープで区画の輪郭を測り、正確な比例関係をさらに検証している。性質を考慮した選択は、ある意味で樹木に委ねられた建築家自身が主張するように、「建物の配置と断面の木々こそが、この場の正当な住人である。われわれが採った設計プロセスは、部屋の配置とフォルムを最初に設定する従来のアプローチとは違う」。屋根には勾配がつけられ、樹木の枝の開きと方向に従って向きを変える。(樹木のない)空地と、太陽光をじかに採り入れられる配置をベースに、全体が変化し動く。

その結果、一連のセルから成る複雑な空間構成ができ上がった。自由な分割によって生まれた新たな空間は、自律的に振動しながら森の中に浮かんでる。

 

作品:大山のゲストハウス/森の隙間

設計:河口佳介+K2-DESIGNー河口佳介、龍野裕平

構造:山田設計ー山田明則

施工:ASJ岡山中央スタジオ(株式会社イチエ建匠)

規模:敷地面積1,299.19㎡/建築面積253.61㎡/延床面積312.83㎡

スケジュール:設計2009-10年/施工2010-11年

所在地:鳥取県

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